夢で逢いましょう

06



 目をゆっくりと開いて、あなたは私の方を見る。
 その表情からすると、意識の方はかなり前から戻っていたのでは、というようにも見える。
 シャラシャラ……と遠いどこかから舞い落ちてくる、金属の箔の音、千枚ものプレパラートが立てる音がもう耳には聞こえだし、傍らの私の気配にさえもすでに気づきだしているというのに、しばらくはまだ、目を開けることもできないでいた、ただ、それだけだったとでもいうように。
 うち捨てられた案山子にいくらか似て見える髪も、まだ若い猫の口か、二枚貝の殻のように綺麗に合わさり過ぎた薄い唇も、目の青もまた昔見たあなたのままで──といったって、映画館の暗がりでかつて私が見たものは、ただ描かれたあなたに過ぎない。描かれなかった時間の中のあなたも、その折々に浮かんでは消えたはずの表情も、無論、心の裡も私は知らない。
 たとえば? 身を潜めた物陰でどんな顔をして焼けて落ちるまでを見つめていたか、その目に映ったものを、あなたはどう記憶し続けたか。
 人々がよく言うように、なぜ、自分だけがというように? 
 それともいくらかは、ママは、パパに従ってぼくを捨てたのだとでもいうように? 
 殴り、痛めつけることの鋭い喜び、殺すことの楽しみと束の間の眠り、そして物陰に降っては積もる、疲労の重み。心の裡のどんな思いが生み出した、それは習わしだったのだろうか、それは、過ぎに過ぎていった日々のうちに洗い流されて、今は消えていったものだろうか、ではないか。
 そう、あなたはなにを今でも記憶し、なにを今は忘れかけているか、または、すでに忘れ去っているだろうか。
 たとえばあなたはジョアンを、ほどかれた長い金色の髪を今もまだ記憶に残しているか。
 そもそも、あなた自身がもう死んでいる、ということをそこにいるあなたは知っているのか?


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